第五期を迎えて

当社は、2019年10月から設立5年目を迎えることになりました。

この4年間で、日本の企業社会で働く人たちは、いわゆる「働き方改革」による大きな波を経験しました。政府主導による取り組みがこの社会に何をもたらしたのか、その評価はもう少し時を待たねばならないかもしれません。

話は少し逸れますが、紀元前に約3千年にわたって存在していた古代エジプト王朝では、統治者であり神格を持ったファラオのためにピラミッドを作る、ということが国家の一大事業でした。日本の古墳時代でも統治者のために古墳を作り、きらびやかな装飾品を一緒に埋葬するなど、そこには多くの「雇用」の意味があったと推測されます。

ピラミッドを作るにはたくさんの奴隷を連れてきて、酷暑、劣悪な環境の中でムチを打って働かせる、そんなイメージがあります。しかし、現代ほど人口を多く抱えていたわけでもなく、軍事的な脅威への備えなども考えると、貴重な働き手を酷使することは理にかなっていません。

古代エジプトも今の日本もあまり変わらないのは、国家組織にトップがいて、その下に優秀な人材によって構成される官僚組織があり、国家統治を円滑に進めていることです。そこには国民を管理するためのマネジメントのコツのようなものがあり、ときに賢く、ときに狡猾な知恵と工夫があり・・・という状況は古今東西あまり変わりません。それは、私たちホモサピエンスという種がはるか昔に誕生して、社会集団を形成して世界に拡散し始めたときから、普遍的な特質のようなものを持っているからかもしれません。

さて、ピラミッドの話に戻ると、一般的なイメージとは裏腹に、奴隷と思われる働き手のマネジメントが、今の企業と同様に行われていたようです。たとえば、「出勤簿」がつけられていて、フツーに休暇が取れていた、といった事実(当社代表が大学時代に聴いた歴史の講義で衝撃を受けた話をもとに構成)。

また、キリンのサイトには歴史学者の吉村作治さんが書いている、次のようなコラムが公開されています。そこには、私たちが「ブラック」とイメージするような風景は広がっておらず、むしろ、人間らしい生き方、働き方があり、国家社会と国民のそれぞれが繁栄的に共生していた姿が伺えます(もちろん、何もかもが良かったわけではないと思います)。

『ピラミッドのために何万人も奴隷が働かされた、は大ウソ。庶民が建造に参加したのは、ビールが飲めるからだった』│史学部│キリンビール大学|キリン

https://www.kirin.co.jp/entertainment/daigaku/HST/hst/no81/

日本の働き方改革は、雇用者と被雇用者の間にあるパワーバランスを崩そうという法的な仕掛けであったと思います。悪質な労基法違反企業はその企業名を公表され( https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html )、一部は罰則付きの規定も定められることになりました。結果として、休みが取れるようになったり、早く帰られるようになったり、実際に経営側が態度を変えて働きやすくなったという声も聞かれました。

しかし、結果的に良い効果もあったかもしれませんが、企業経営者が取り組む「働き方改革」の動機は不純なままだったのではないか、という思いもあります。

「法律がこうだからこうする」というのは、「長いものには巻かれろ」的な発想でしかなく、人々が「働くこと」に本質的に何を感じ、何を思っているのかといった議論がなされるわけでもなく、そもそも働く人たちと企業の関係性について顧みる機会があったかどうか。

今、自社で働く人たち、就職先として考えている人たち、その家族や友人など、雇用の観点から見た場合に企業を取り巻いているステークホルダーが、自社をどのように見ているのか、どのようなイメージを持っているのか、 その人たちに 自社をどのように見てほしいのか、真剣に考えるべきときが来ているように思います。

当社では、昨年から「エンプロイヤー・ブランディング」を中心的なテーマとして取り組んでまいりました。エンプロイヤー・ブランディングとは、「働く場の価値」を組織の内外に正しく伝えることであると、当社は解釈しています。

大きな枠組みで考えると、特に先進国では「資本主義の成熟」や「資本主義社会の限界」について徐々に人々が感じ始めているのではないか、と思わせる節があります。格差社会を批判するのは「ポスト資本主義」的な発想でしょうし(資本主義ではそれが当たり前のもの)、今まさにトレンドであるSDGsが「目標8」として掲げている「働きがいも経済成長も」という言葉は、資本主義社会が国境を超えてもたらす弊害に対する警鐘を鳴らしています。

https://www.undp.org/content/undp/en/home/sustainable-development-goals/goal-8-decent-work-and-economic-growth.html から


5%
2018年には推定1億7,200万人が就業していない-失業率は5%

100万人
労働力の拡大の結果、失業者の数は毎年100万人増加し、2020年までに1億7,400万人に達すると予測されています。

7億人
2018年には約7億人の労働者が極度または中程度の貧困状態で生活しており、1日あたり3.20米ドル未満でした。

48%
女性の労働参加は、男性の75%に対して、2018年には48%でした。 2018年の労働人口の35億人のうち、5人に約3人が男性でした。

20億人
2016年には20億人の労働者が非公式の雇用に就いており、世界の労働力の61%を占めています。

8,500万人
男性よりも女性の方が労働力として十分に活用されておらず、男性の5,500万人に対して、女性は8,500万人です

SDGsで言われる「働きがい」とは、Decent Work(人間らしい働き方)を日本社会に沿うように意訳したものと思われます。先進国と途上国の格差は事実としてあるからです。しかし、むしろ実際に私たち日本で働く人にとっては「人間らしさ」や「自分らしさ」といった言葉のほうがより真実に迫る響きがあると感じます。なぜなら、私たち日本人は、働く上で、精神的なより所を見失っているのではないか、と思うからです。

細かいことは割愛しますが、厚生労働省が発表したいわゆる「過労死白書」では、過労死認定される件数のうち「精神疾患による自死」の割合が半分を占めてきていることがわかります。また、最近は「退職エントリー」と言われるブログ記事が増加し、退職した理由について働く側から見た企業の実態に触れていることも興味深く、特に若年層で「転職当たり前」の風潮が出てきていることは、時代的な価値観の様相がすでに変わり始めていると思います。つまり、企業や経営側は、自分たちが思っているほど求心力を強く保てていない時代がやってきているわけです。

このような文脈から、「働くことの意義」や「勤務先の企業の存在意義」、「職場における自分らしさ」、「働く環境」について考える機会を与えるエンプロイヤー・ブランディングは、今の時代に合った一つの枠組みではないかと思うようになりました。

なんだ結局宣伝か、という向きもあるかもしれません。が、そもそも日本人が昔々、江戸時代頃に持っていたような商売人の気質というのは、「三方良し」という言葉があったように、もっと働く人や社会との関係性について考えていたのではないか、そのエトス(精神)を日本人はどこかで忘れてしまったのではないか、とも思うわけです。エンプロイヤー・ブランディングは、過去の日本人と現代の日本人をつなぐべきミッシング・リンクのヒントになるような気がしてなりません。

いずれにしても、「日本社会の繁栄と前進」のために、当社は引き続きエンプロイヤー・ブランディングの普及・拡大に努め、当社を必要としてくださる企業とそこで働く人々のために邁進したいという所存です。

今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

2019年(令和元年)10月1日

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